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広島高等裁判所 平成5年(ネ)8号 判決

平成五年(ネ)第三号事件控訴人・同年(ネ)第八号事件被控訴人(一審原告、以下「一審原告」という。)

隅田統

平成五年(ネ)第三号事件控訴人・同年(ネ)第八号事件被控訴人(一審原告、以下「一審原告」という。)

隅田美喜子

右両名訴訟代理人弁護士

椎木緑司

平成五年(ネ)第三号事件被控訴人・同年(ネ)第八号事件控訴人(一審被告、以下「一審被告」という。)

伊勢坊等

平成五年(ネ)第三号事件被控訴人・同年(ネ)第八号事件控訴人(一審被告、以下「一審被告」という。)

広島建設工業株式会社

右代表者代表取締役

櫻木俊彦

平成五年(ネ)第三号事件被控訴人・同年(ネ)第八号事件控訴人(一審被告、以下「一審被告」という。)

東洋火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役

髙尾榮藏

右三名訴訟代理人弁護士

新谷昭治

前川秀雅

主文

一  一審原告らの本件控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。

1  一審被告伊勢坊等、同広島建設工業株式会社は、各自、一審原告らに対し、各金一八四九万五六三三円及び右各金員に対する平成二年二月二〇日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  一審被告東洋火災海上保険株式会社は、一審被告広島建設工業株式会社に対する本判決が確定したときは、一審原告らに対し、各金一八四九万五六三三円及び右各金員に対する平成二年二月二〇日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  一審原告らのその余の請求を棄却する。

二  一審被告らの本件控訴を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審を通じて、これを二分し、その一を一審被告ら、その余を一審原告らの負担とする。

四  この判決の一1項は、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

(平成五年(ネ)第三号事件について)

一  一審原告ら

1  原判決を次のとおり変更する。

一審被告伊勢坊等、同広島建設工業株式会社は、各自、一審原告らに対し、各金三五三二万九六八七円及び右各金員に対する平成二年二月二〇日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

一審被告東洋火災海上保険株式会社は、一審被告広島建設工業株式会社に対する本判決が確定したときは、一審原告らに対し、各金三五三二万九六八七円及び右各金員に対する平成二年二月二〇日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は第一、二審とも一審被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  一審被告ら

1  一審原告らの本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は一審原告らの負担とする。

(平成五年(ネ)第八号事件について)

一  一審被告ら

1  原判決中一審被告ら敗訴部分を取り消す。

2  一審原告らの請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも一審原告らの負担とする。

二  一審原告ら

1  主文第二項と同旨。

2  控訴費用は一審被告らの負担とする。

第二  当事者の主張

当事者双方の主張は、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因1ないし3(交通事故の発生、一審原告らの地位、一審被告らの責任原因)は当事者間に争いがない。

二損害について

1  逸失利益

(一)  広島銀行における逸失給与、退職慰労金

〈書証番号略〉、一審原告隅田統本人尋問の結果、原審及び当審調査嘱託の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(1) 芳明は、昭和三七年五月一日生まれの男子であり、昭和六一年三月に中央大学商学部を卒業し、同年四月一日に広島銀行に入社した。

広島銀行は、資本金五一九億八〇〇〇万円の広島県最大の銀行、かつ、優良企業であり、四〇〇〇名余の従業員を擁し、組織、規程等が整備されている。

(2) 広島銀行においては、職員につき勤務成績等を基礎とする人事考課を行って、A、Bプラス、B、Cプラス、C、D、Eの七段階に評定し、また、勤務年数等を考慮して、その都度、昇給及び昇格を決定しており、年二回支給される賞与は、労働組合との交渉を経て決定される。

広島銀行は、毎年一〇月、その年の四月の資格手当、家族手当、役付手当のベースアップ実績に基づき、B評定の大卒一般職員についての職員給与年令別平均モデル表を作成しており、平成二年一〇月作成された結果は、原判決添付別表2の番号1ないし33記載のとおりである(したがって、将来のベースアップ分は含まれていない。)。

最近の実績では、B考課者以上が全体の九六パーセント以上を占めており、大卒同期入社の者のうち過半数の者が参事まで昇格し、ほとんどの者が右モデル表に近い処遇を受けている。

(3) 芳明は、平成二年二月の本件事故当時、B評定の大卒一般事務職員として中級の資格を有し、広島銀行から、平成元年度の給与及び賞与として総額三八七万〇五〇三円の支給を受け、平成二年四月には、右モデル表のとおり上級に昇格する予定であった。

芳明に、その勤務成績が平均以下であるというべき事情は窮われない。

(4) 広島銀行における職員の職位定年は、副主事については五五歳、主事、副参事、参事についてはいずれも五六歳であるが、その後も希望により先任職員として六〇歳まで勤務することができる。

(5) 職員が退職する際には、退職慰労金の支給を受け、三〇年以上勤務した事務職員が定年退職時に支給される退職慰労金の額は、退職時の本俸月額(五六歳定年退職の場合一〇万三三〇〇円)に八五を乗じた金額に一定の加算金(上級二三〇万円、主任三八〇万円、主事補五三〇万円、副主事六五〇万円、主事七〇〇万円、副参事七八〇万円、参事八一〇万円)を加えた額であり、前記モデルのとおり勤務して五六歳で職位定年に達し六〇歳で退職した際の退職慰労金は、一六八八万〇五〇〇円である。

右認定事実によれば、広島銀行においては、B考課者以上が全体の九六パーセント以上を占め、大卒同期入社の者のうち過半数が参事まで昇格し、ほとんどの者が前記モデル表に近い処遇を受けており、芳明は、前記モデル表のとおり、入社五年目に入る平成二年四月には、上級に昇格する予定であったところ、勤務成績が平均以下とする事情も窮えないから、芳明は、原判決添付別表2番号1ないし33の年間総給与欄記載の給与を得ることができたものと認めることができ、右額からライプニッツ方式により中間利息を控除した総額は同表ライプニッツ年間総給与欄記載のとおり合計一億三一三四万六三八九円となり、右金額から五割の生活費(一審原告らは、芳明が近く結婚することは確実であったから、生活費は四割が相当であると主張するけれども、右結婚の時期、結婚による生活費の減少の有無・割合を蓋然性をもって確定することができないから、右主張は採用できない。)を控除すると、六五六七万三一九四円となる。

また、芳明は、六〇歳で退職した時、退職慰労金として一六八八万〇五〇〇円を得ることができたものと認められるから、右金額から五割の生活費(退職慰労金は、実質上の後払賃金で、退職後の生活保障の役割を果たしているから、生活費を控除するのが相当である。)を控除し、また、ライプニッツ方式により中間利息を控除すると、次の計算式のとおり一六八万六三六一円となる。

1688万0500円×(1−0.5)×0.1998=

168万6361円

そして、右金額から一審原告らが自認する広島銀行から給付を受けた退職金一六二万〇二五二円を控除すると、六万六一〇九円となる。

よって、広島銀行における逸失給与及び退職慰労金の合計は六五七三万九三〇三円である。

(二)  広島銀行退職後の逸失利益

弁論の全趣旨によれば、芳明は、広島銀行退職後、六七歳まで稼働し、原判決添付別表2番号34ないし40の年間総給与欄記載の所得合計二四七七万七六〇〇円を得ることができるものと認められるから、右金額からライプニッツ方式により中間利息を控除した額は同表番号34ないし40のライプニッツ年間総給与欄の合計四一一万〇五二七円となり更に五割の生活費を控除すると、二〇五万五二六三円となる。

2  医療費等

〈書証番号略〉によれば、一審原告らは、芳明の医療法人あかね会土屋総合病院における診療費、診断書料、処置料等として一万〇二九〇円を出捐したことが認められる。

3  一審原告らの慰謝料

一審原告らが、芳明の死亡によって甚大な精神的苦痛を受けたことは容易に推認できるところ、右精神的苦痛に対する慰謝料は各七五〇万円が相当である。

4  葬儀費、法要費及び墓碑建立費

原審における一審原告隅田統本人尋問の結果及び〈書証番号略〉並びに弁論の全趣旨によれば、一審原告らが、芳明の葬儀費、法要費及び墓碑建立費として合計八五七万四六六四円を出捐したことが認められる。右費用のうち本件事故と相当因果関係ある損害は一〇〇万円と認める。

5  過失相殺

当審も、過失相殺は相当ではないと判断するが、その理由は、次のとおり付加するほかは、原判決一四枚目裏七行目から一七枚目表七行目までと同一であるから、これを引用する。当審証人間賀田秀次の証言は引用にかかる原審の認定判断に符合し、右認定判断を左右するものではない。

(一)  原判決一四枚目裏八行目の「第一九号証」の次に「(以上の甲号各証の原本の存在及びその成立は争いがない。)」を、同行目の「第四号証」の次に「(乙第二号証は原審における一審被告伊勢坊等本人尋問の結果により一審被告ら主張の写真であると認められ、第三号証は成立に争いがなく、第四号証は一審被告ら主張の写真であることに争いがない。)」を各加える。

(二)  同一六枚目裏一〇行目の「点についても、」の次に「芳明は、加害車両に原付専用レーンを塞がれ、やむなく車道に進入したものであること、また、」を加える。

6  損害の一部填補

一審原告らが、本件事故によって生じた損害の一部填補として合計五〇〇一万三五九〇円の支払を受けたことは当事者間に争いがない。

右金額を1ないし4の損害合計八三八〇万四八五六円から控除すると三三七九万一二六六円となる。

そうすると、一審原告らの損害は各一六八九万五六三三円となる。

7  弁護士費用

一審原告らが同訴訟代理人に本件訴訟の提起・追行を委任したことは明らかであるところ、本件事案の性質、事件の経過、認容額等に鑑みると、一審被告らに対して賠償を求め得る弁護士費用は各一六〇万円が相当である。

三以上によれば、一審原告らの本訴請求は、一審被告ら各自に対し、それぞれ右損害金一八四九万五六三三円及びこれに対する本件事故日の翌日である平成二年二月二〇日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度(但し、一審被告東洋火災海上保険株式会社については、一審被告広島建設工業株式会社に対する本判決の確定が条件である。)においては正当として認容すべきものであるが、その余は失当として棄却を免れない。

よって、一審原告らの本件控訴は一部理由があるから、原判決を右の限度で変更し、一審被告らの本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 露木靖郎 裁判官 小林正明 裁判官 渡邉了造)

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